レポート | 宿泊
日本一標高の高い露天風呂は2,150mの本沢温泉。高天原温泉は露天風呂の標高では白馬鑓温泉の2,100mに次ぐ第3位の2,060m。白馬鑓と高天原を逆にランキングする見方もあるが、まあ正直なところどこが一番でもドングリの背比べ。最も高度感があるのは白馬鑓温泉だし、四方全てを3,000m級の山々に囲まれる高天原温泉は相対的に2,000m超えとは思えないかなり低い場所に感じられる。
【日本一遠い温泉】
それに対し誰も異論のない高天原温泉の称号は、日本一遠い温泉。その距離は最短でもおよそ徒歩13時間。普通の登山者が最低でも二日かける道程なので、数字だけ見て半日ちょっとで行けるじゃんなどとは思うなかれ。念入りに計画を立てないと途中で体力が切れて動けなくなる。というか動けなくなりかけた。山小屋を最大限利用し荷物を軽く、体力に自信がないなら間違っても天泊で行こうなんて欲張らないこと。
複数ある高天原へのルートどれを取っても、楽に行ける道はひとつもない。最短ルートとなる大東新道は沢沿いのため、増水の場合は通行不可。数分で数メートルも増水することがあるので、雨の日は別ルートを。ちなみに高天原付近に幕営地はない。
【山荘】
高天原山荘は2011年に建て替えられ、以前の崩れそうな危うさは無くなった。1階には食堂やトイレ、乾燥室、そして若干の宿泊スペースなどがあり、2階がぶち抜きのタコ部屋になっている。個室はない。太郎も雲ノ平もトイレは水洗のバイオトイレだったが、高天原山荘はぼっとん。臭いはあまり気にならなかったが、まあ臭うことは臭う。そんなことよりも、疲れた脚に和式はきつい。
【山荘より徒歩30分の温泉】
温泉は山荘から30分弱離れた温泉沢の沢沿いにある。普通に山道なので、浴衣にサンダルを引っかけてぶらりってわけにはいかない。温泉沢に出ると沢を渡った向こう側の右岸に、まず女性露天の湯小屋が目立っている。沢の上流に目を転じると左岸に何も囲いのない野湯そのものの湯槽がある。
さて混浴露天風呂はどこかと探すと、女性湯小屋の少し上流、草葉の上からたまに生白い人肌がちらちら見えることで、あそこにあるのかと気付く。そしてそこから素っ裸のままおっさんが沢を渡って野天に行ったり戻ったりしてるから、女性は目のやり場に困るかもしれない。女性露天は「からまつ美人の湯」、混浴露天は「からまつの湯」、野湯には名前はなくそのまま「野天風呂」と呼ばれている。
【混浴露天風呂「からまつの湯」】
女性湯小屋へはハシゴが架けられている。ハシゴを上がって湯小屋の横を左奥にそのまま登って行けば20分ほどで夢の平の竜晶池。混浴露天にはハシゴなんて親切なものはなく、湯が溢れて流れ落ちる抉れた段差をよじ登る。湯槽の横に板を敷いた脱衣場所があり、一応その上だけは屋根が付いている。混浴ということになってはいるが、広くもないし女性専用露天もあるから、実質的には男湯だ。
【野天風呂】
からまつの湯から沢を渡って野天風呂へと移動。手作り感溢れる石を積み上げた湯船。どこからも丸見えで見晴らしが良いのだが、からまつの湯のように男性でいっぱいではないだけに、こちらの方が女性でも入り易いようだ。遮る物なく見えているから、女性が入っているのも分かり易く、女性の先客がいたら遠慮しない男性もいないだろうと思う。
【山奥でも結構な賑わい】
その日は降ったりやんだりの天候。それでも既に4人が入浴中。その後一人追加の後、若者二人が遅れて現れた。女性側にも先客が一人、後にもう一人。山荘に戻った頃に到着したご夫婦もそれから温泉に向かったので、その日の午後以降ツレも含めて女性は全部で四人。高天原温泉は縦走路の途中にあるわけじゃなく、わざわざ道を曲げて来る目的は、殆どが温泉以外にない。ここまで来ときながら多少の雨くらいで温泉を諦める者などいないと断言できる。それにしても夏の最盛期でもない連休でもないこの日に、これほどの奥地にこれだけの人がいることに少々驚いた。
普通の温泉宿だったなら、まず到着してひと浴び、夜にひと浴び、そして朝にひと浴びと最も少なくても3回は入浴するだろうが、さすがに30分近く離れているとそういうわけにはいかない。暗闇の中、山道を歩くのも慣れないと危ないし。そもそも疲労も溜まっているからそう何度もあそこを歩く気になれない。近けりゃせっかくここまで来たんだから何度も何度も入りに行くのに、遠いのが残念だ。と思うことは皆同じようで他の登山者もそう言っていた。
ここまで温泉そのものの感想を書いてないけど、ものすごく苦労してここまで来ると、もう温泉自体の良し悪しなんて大きな問題じゃなくて、これほど遠くまで来て入ることそのものに価値がある。いや、冷静になって写真を見ている今は、なかなかいいロケーションだし濁り湯もいい感じと思うのだけど、その場にいる時は、とにかくやっとここまで来て入ることができたんだという思いの方が強く、もう温泉の気持ち良さとかそんなことはどっかにすっ飛んでいた。次に行けるなら2泊以上してもっとじっくり温泉を味わいたい。竜晶池や水晶池にも行ってみたいし。でも、もうちょっと楽なルートが開拓されでもしない限り、簡単なことじゃないし難しいだろうな〜。
利用登山口P:折立::678 537 490*37