レポート | 日帰り
夏が来れば思い出す、尾瀬。尾瀬というと群馬県側にある鳩待峠の印象が強いだろうが、尾瀬の歴史を築いてきた長蔵小屋はぎりぎり福島県側にあり、また「夏の思いで」の歌碑も福島県側に存在する。交通アクセスの良さから人は群馬県側に集まるが、実は尾瀬の本拠は福島県側の檜枝岐村なんである。
【裏燧エリアにある澁沢温泉小屋】
そして尾瀬を味わい尽くした尾瀬フリークの行き着く先が、燧ヶ岳の北部に広がる福島県側の、辿る人の少ない静かな裏燧と呼ばれるエリアだそうだ。そんな裏燧にひとつだけぽつんと離れてあるのが、澁沢温泉小屋。尾瀬エリアで最も古い温泉で、開業は昭和37年。昭和49年に温泉が発掘された檜枝岐温泉よりも古い。
渋沢温泉の名の由来は、単に渋沢(しぼさわ)沿いに湧いていたから。ちなみに関係ない話だが、檜枝岐村は温泉地として歴史が浅いというのに湯量が豊富で、旅館・民宿どころか一般家庭までの全てに温泉が引かれているそうだ。なんとも羨ましい土地柄だ。
【ルート】
檜枝岐温泉までの道は長い。高速を降りてから、道路が空いていて急いだとしても3時間は余裕でかかる。その不便さゆえに、自分は檜枝岐村が大のお気に入り。そこよりさらに山道を登って行くと、大きな御池駐車場に辿り着く。駐車料金は1,000円。ここが尾瀬への玄関となる。
今回は御池駐車場から歩いたが、少しでも楽をしたければ御池駐車場よりさらに先の平ヶ岳登山口の駐車場まで行き、そこから歩いた方が標高差もなく徒歩の時間も短い。しかし半分は舗装路を歩くので単調でつまらないだろうが。
途中にトイレはないので出発前に身を軽くしておくように。国立公園内の自然保護区域だから、大きい方はもちろん放尿も厳禁。自分の場合は汗で殆ど出てしまうのか登山の時は10時間くらいしないことが多いので、今回の往復程度ならまったく平気だった。
多くの車が御池駐車場にいたが、その殆どは燧ヶ岳の登山客。渋沢温泉方面に向かう人は少ない。
前半は尾瀬らしい湿原の木道を快適に歩く。このまま楽に行けるかと思いきや、後半は木道もなくぬかるんだ湿地の急坂に変わる。渋沢温泉は御池駐車場より標高が低いのでほぼ全行程が下りになるのだが、ずるずると滑るわ泥がついて靴が重くなるわで、泣きが入るほどの消耗。正直、かなり甘く見ていた。
【野天風呂「せせらぎの湯」】
御池から3時間強かかり疲弊しきった所でようやく辿り着いたのが「渋沢温泉せせらぎの湯」。今回の目的地だ。
脱衣所なんて気の利いたものはなく、脱いだ服は岩の上に置くことになる。湯船は登山道の通る横にあり、登山者が来れば着替えも入浴も丸見え。
「せせらぎの湯」からさらに先に進むと、澁沢温泉小屋がある。小屋を管理するご夫婦は高齢のため管理・営業が厳しく、譲り受けてくれる人を募集しているような状況みたいだから、今後いつなくなってしまうかわからない。経営を引き受ける人が現れるといいのだが。
「せせらぎの湯」は入浴だけなら無料。源泉温度は33度と低く、露天には源泉のままで沸かし直さない湯が注がれているから殆ど水に近い。手を入れてみるとぬるいというより冷たい。9月半ばのこの時季、ようやく暑さが緩み始めた程度でまだまだ汗ばむ気温だったが、それでもこの冷たさ。入浴滴期は、盛夏の8月ひと月程度とみた。
湯船は源泉のすぐ横に造られている。少し離れた隣には川原があり、まさに"せせらぎ"の湯。木々の緑に深く覆われた谷間というロケーションは、露天風呂らしさを満喫できる素晴らしいものだ。くやしいので尻まで浸かってみた。冷たい。とても長くは浸かっていられない。ああ、もうちょっと温度が高ければ…。
※2009年より小屋番が代わるそうです。経営を引き継ぐ人が現れたようで、良かった良かった。
※2015年、雪により小屋が倒壊。休業中。再開未定。澁沢温泉小屋Facebook