レポート | 天泊
白馬鑓ヶ岳の中腹、標高2100mの高さに白馬鑓温泉はある。明治の頃にそこから白馬村への引き湯が試みられたそうだが、雪崩による犠牲者が出て頓挫した。近年、ボーリングにより麓で温泉を掘り当てて地元の悲願は叶えられ、その源泉の近くに作られたのが公衆浴場の「小日向の湯」。小日向の湯は長年の悲願の象徴でもある。
現在、白馬鑓温泉には山小屋が一軒だけ建ち、大量の源泉をその一軒だけでどばどばと掛け流し、というか殆ど掛け捨て状態で使用している。ここに辿り着くには、およそ5時間前後の山歩きが必要となる。
【シーズンオフも入浴は可能】
鑓温泉小屋の営業は7月上旬頃から9月いっぱいくらいまで。積雪が多く雪崩の発生も頻繁なため、営業期間が終わると小屋は解体して保存される。掛け流しの温泉はそのまま開放され、技術と根性があれば積雪期でも入浴することは自由。特に雪の安定した春スキーのシーズンには良く訪れられているようだ。
なお、小屋が営業を開始してからも7月ではまだ雪渓も大きく残り天候も不安定なため、一般的な登山シーズンは8月と9月の二ヵ月間と考えた方がいいだろう。9月も中旬を過ぎると標高の高さもあって夜の冷え込みは厳しい。
わざわざ小屋仕舞い後の10月を選んだのは、人が少ないことを当て込んで。とにかく夏山の混雑は嫌いだからだ。単なるひねくれ者とも言えるかもしれない。さすがに10月下旬ともなるといつ雪が降ってもおかしくない時季で、それなりの用心と装備は必要となる。小屋もないから宿泊のためのテントや防寒具で荷物の重さもそれなりにずっしり。もちろん小屋がないということはトイレなんかも解体されて存在しない。
【鑓温泉小屋】
白馬鑓温泉に到着してみると、平日のシーズンオフということもあって誰もいなかった。この年は4月の三斗小屋温泉、7月の中尾温泉、そして今回と三回宿泊した三回ともが自分らだけの独占状態となったことになる。
ちなみに猿倉の駐車場には主のいない車が一台停まっていたが、大雪渓から白馬岳を経由して栂池に下りたらしい。麓では紅葉が最盛期で猿倉には写真を撮っている観光客がちらほらいたが、さすがに登山する人は少ないようだ。白馬山系の山小屋は遅いところでも10月中旬には営業を終了している。
10月下旬のこの日、鑓温泉小屋は既に分解されて、板が温泉の横に積み上げられている状態。
【露天風呂】
露天風呂の湯船はテント場の上にあり、テント場に向かって溢れた湯がどばどばと落ちている。それはもうもったいない程にどばどばと。巨大な湯船に満たされた湯はかなり熱く、肩まで浸かるなんてとんでもないというくらいだ。入っていれば少しは慣れるが、それでもちょっと動いただけで痛いほどに熱い。
露天風呂から望む景色は雄大で他では味わえないもの。小屋が営業中は湯船の両脇に脱衣所などの建物があって狭く感じるが、それがない今は開放感も抜群。湯が熱過ぎたことで満足度から泣く泣く星ひとつ削ったが、それ以外は文句無しのパーフェクト。距離が長く時間はかかるが一度来てみる価値はある。登山道は急登も少なく難しい箇所もない。
【留意点】
白馬鑓温泉はあくまでも山小屋、年によって状況は違う可能性がある。2000年頃だと思うが、露天風呂が真っ二つに仕切られ男女別となっていた年もあった。女性専用露天風呂ができたことで2008年の時点では混浴に戻っていたが、翌年がどうなるかの保証はないので、営業期間中に訪れるなら確認してからの方が良いだろう。
営業期間外を狙うなら10月上旬が比較的安全。10月の連休には訪問者も多いらしい。10月1日から1〜2週間は小屋解体作業でまだ小屋の人もいるため安心感もある。但し、数年前には10月の連休を寒気が襲い吹雪になって白馬山系で複数人の死者が出たこともあるし、充分な注意が必要なことには変わりない。解体作業が終わった後は登山道のメンテナンスもされないため、大雨などで橋が流されてしまえば翌年までそのままとなる。
初夏の営業開始前はまだ雪も多くルートも不鮮明。2006年の7月上旬に、小屋建て従業員が下山途中に行方不明になる事故もあった。従業員ですらこれだから、半端者が足を踏み入れることは危険。
ちなみに白馬鑓温泉では携帯が使えた。softbankはわからないが、docomoとauは電波が届いている。
利用登山口P:猿倉::535 276 252*58