レポート | 日帰り
「下の湯」の場所は少々わかり難い。旅館中の湯を過ぎて橋を渡り、右に折れて滝の湯旅館へ向かう手前で左の道に入り、道なりに100〜200m進むと滝の湯旅館の下流に突き当たる。川に架かる木製の橋を渡った左側にあるのが「下の湯」。
「下の湯」は既に宿泊はやってなく、日帰り入浴のみの営業となる。おそらく高齢のためなのだと思うが、後を継ぐ者がいないとなるといずれ廃業となる運命だろうか…と思っていたら、どうやら後継者が見つかったらしいという噂もあるようだ。
川に架かる木製の橋は時間旅行への入口。橋を渡りきると50年ほど時間が遡る。古い建物好きにはわくわくしてたまらない木造家屋の屋根の下に、小さく「西山温泉 下の湯」の看板。まず手前にあるのが木造の浴舎。その脇を通って奥に行くと、防寒のためムシロで覆われた玄関が現れた。
玄関前でGPSによる位置測定をしてから引き戸を開けると、いきなりお茶の間があり正面にこたつに入ったお爺さんが不動のままこちらを見ている。玄関前でうろうろしていたのも見えていたか?
【日帰り入浴料】
日帰り入浴できますか?と聞くと、はいはい、とお爺さんとは違う方向から声が聞こえ、お婆さんが立ち上がった。すぐ隣にいたのに全く気がつかなかった。
入浴料二人分800円をお婆さんに支払い、中に上げてもらう間もお爺さんはぴくりとも動かない。
【浴室】
「下の湯」の浴舎は母屋と繋がっており、玄関を入って右の廊下を行くとすぐに浴室がある。脱衣所は細長く狭めで、籠の前で二人並んで着替えるのはちょっと無理。縦になって着替えるが、グループだったら同時に何人もは着替えられない。浴室側の扉は下半分が磨ガラスで上半分は素通しなので、脱衣所から浴室の中が見えている。
浴室はまあまあ広いのだが中央にある湯船は小さめで、大勢は同時に入れない。中央で半分に仕切られているのだが、その片側がかなり熱めの湯なので入浴は難しく、片側だけだとせいぜい三人が限度、ほぼ二人用といった広さだ。ここはグループで訪問するような湯ではないだろう。
ネットで古い写真を見るとコンクリで冷たい感じのする湯船だが、今は浴槽の縁が木の板で覆われて暖かみのある湯船となっている。
浴舎の窓は上半分が素通しのガラスなので、外から浴室が見えてしまう。「下の湯」に向かう者は窓のすぐ外を必ず通るので、簡単に覗かれてしまうという欠点があるものの、案外気にならない雰囲気があるのは不思議だ。まあひっきりなしに人が通るようだと気になるのかもしれないが、そもそも人が少ないからいちいち気にするのは無粋というものだろう。
【お爺さん…】
昔懐かしい風情に包まれてたっぷり郷愁に浸った後、名残惜しい気持ちになりながらお茶の間に戻ると、相変わらずお爺さんは不動のままこたつに入っていた。お婆さんはちょこまか動き回っているようだけど、そういえばお爺さんの声をひと言も聞かなかったな。