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混浴貸切温泉〜快楽秘湯表編

混浴の記憶

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覗き込む男

そいつの姿を見た時から、嫌な予感はあったのである。私たちがフロントから風呂に向かって行く途中、廊下で煙草を吸っているその男がいた。普通、煙草ならロビーで吸うだろうから、こんな場所で吸っているのは待ち合わせなのだろうと、その時はつとめて善意に解釈した。風呂に行く手前で、私たちはちょっとトイレに寄ったのだが、その隙にその男の姿はなくなっていた。

仙人閣は、男女別の内風呂から半混浴の露天風呂に直接出られる構造になっている。よって当然のことながら脱衣所も男女別である。私たちは別れて、それぞれの脱衣所に入った。男の脱衣所に、一組の服がカゴに入っている。一人、入浴しているらしい。嫌な予感が頭をよぎった。もしかして、さっきの煙草吸ってた奴か? もしそうだとしたら、むちゃくちゃ不審である。風呂上がりの一服はよくあるだろうが、入浴前の一服は聞いたことがない。しかし、多分別人だろうと、私はまた自分に言い聞かせていた。

カメラの準備に手間取ってしまい、少し入るのが遅れてしまった。浴室のドアを開ける。内湯には誰もいない。あまり大きくない湯船にちょろちょろと湯が流れ込む音があるだけである。湯気で曇ったガラス越しに露天が見えた。男性が一人、女性側との仕切りに張り付くように入浴している姿が、ぼんやりと見えた。念のため、女湯に向かって声を掛けたが、返事はなかった。女湯と男湯の間は、上部に空間がありつながっているのだ。私は身体を流してから、すぐに露天に抜ける扉を開けた。男性は少し身じろぎしたが、その場を動く様子はなかった。特別驚いた様子もなく、相変わらず女湯との仕切り付近で、肩まで湯に浸かっている。仕切り付近に張り付いているということは、向こうに彼女でもいるのかもしれない。私は反対側に離れて、様子を窺いながら湯に浸かった。

空には雲ひとつなく、ぎらぎらと湯面に光が反射している。私とその男性は無言のまま、風と湯の音だけが聞こえている。なんだか妙な感じである。「そちらに連れの方がおられるのですか?」こう聞いてみたくて、しかし私はなんとなく聞きあぐねていた。もしこの男性に連れがいないのなら、向こう側に声をかけようと思っていたのだ。

暫くして、私の様子を察したのか、男性は無言で露天風呂を出ていった。この男性に連れがいるようにも見えない。私は早速仕切りの方に行き、女性側に向かって声を掛けた。

「そこにいるんか?」

「………」

しーんとして、何も返ってこない。どうやらいないらしい。このとき、仕切りの下、湯面との間に、10cm程の隙間が空いていることに気づいた。「誰かいますか?」念のためもう一度声を掛けてから、私は仕切りの途切れる所まで行って、女性側を覗き込んだ。そこには、誰もいなかった。変である。彼女が私を待っていない筈がないのである。やはり、何かあったのか?

仕方ないので、とりあえずレポート用の写真をあちこち角度を変えて撮っていると、いつの間にかどこからか彼女が恐る恐るやってきた。私の姿を見つけ、近寄ってくると、「変な男がいた〜」とその口から怒濤のように文句が吐き出された。話を聞くと、私しか入っていないと思っていた彼女は、仕切りの所に来て、「お〜い」と声を掛けたんだそうである。もちろんタオルなど巻いていない素っ裸のままである。返事はなかった。変だなと思った。ふと気づくと、仕切りの下の10cmの隙間から男が必至に覗いているのが見えた。目が合い、彼女は硬直した。しっかり目が合っているのに、その男は目を逸らそうともしなかったそうである。不気味である。そして我に返り背中に寒けを感じながら、慌てて奥にある女性用の露天風呂に今まで逃げ込んでいたそうなのだ。

まったく、むかつく野郎である。

話をしていると、なんとその男が露天風呂に戻ってきた。さっき見た時は内湯にもおらず、完全に上がったようだったのにである。目配せして、彼女を逃がす。しかし、何故また戻ってきたのか、つくづく不審な男である。私は少しして内湯に戻った。内湯で女性側に声を掛けたが、彼女の返事はなかった。奥の露天に逃げたのだろうか。男は景色を見るようなふりで岩の上に上ったり、露天の中をひとしきりうろうろし、すぐにまた私のいる内湯を通って出ていった。いったい、何しに来たんだ?

私は再び露天に戻って、女性側に声を掛けた。返事はなく、彼女はいないようだ。上がったのだろうか。しかし、もしこんなところに一人にしてしまったら可哀想である。確信のもてない私は、露天と内湯と交互に何度か声を掛けてみた。返事はない。おそらく上がったのだろう。そう決めて、私も風呂を出ることにした。

内湯のドアを開けて脱衣所に戻り、身体を拭いていると、なんとまたしても男が脱衣所に戻って来た。いそいそと服を脱ぎはじめる。何考えてんだ?

ロビーで彼女は待っていた。彼女が脱衣所から出ると、なんと男が脱衣所の目の前で煙草を吸っていたそうだ。顔でも確認したかったのであろうか。それにしてもこんな平日に、女の裸を見たいためだけに待ち伏せなんかするものだろうか。女性が来る確率も低いだろうし、そんなことのために貴重な時間を割いて、もったいなくないのであろうか。虚しいというか、哀れというか…。

しかし、誰もいないことがわかっていながら風呂に戻ったのは何故だろう。私がなかなか上がってこないから、もう一人女性が入浴しているとでも思ったのだろうか。

いやそれとも、もしかして、思い出しぶっこき?