レポート | 宿泊
秋田県と岩手県の県境に沿って広がる和賀山塊。和賀岳を盟主に千メートルを超える山々が連なる。ブナの原生林に覆われ、樹齢千年に近い巨木がいくつもその奇形を根付かせている急峻な峡谷に立ち入る人は少ない。その和賀山塊の足元、深い原生林に囲まれて夏瀬温泉がある。
夏瀬温泉の開湯は明治37年。湯治場として100年続いた一軒宿も、平成13年に老朽化のため閉館。その後、乳頭温泉郷の妙の湯温泉が手を入れ、平成17年8月に全室露天風呂付きの旅館「都わすれ」の名で再オープン、閑静な隠れ家的旅館として休日には予約が取り難いほど人気を博している。
【全室露天風呂付】
客室付の露天風呂というと、今人気であちこちの旅館が導入を増やしているが、ぶっちゃけ狭くてしょぼいものが殆ど。源泉保護の観点から部屋の露天風呂には温泉を引いてない旅館もかなり多い。
広々して良さそうな所はお値段もやはりそれなりで、さすがに二人で一泊10万円超えコースともなると、おいそれと手が出るものじゃない。
「都わすれ」は全8室(その後10室に)しかない贅沢な造り。部屋の露天風呂も庭に広々スペースを取って、しかも源泉掛け流し。それでももっと広い風呂に入りたいという要望には、別に貸切露天風呂まで用意しているという周到さ。なのに料金は二名宿泊の場合で一人25,000円〜というお手ごろ価格。
なお、日帰り入浴も受け付けており、入浴料500円に60分あたり1,000円の追加で貸切露天の利用が可能だ。
【貸切露天風呂】
貸切露天風呂は1時間ごとの予約制となっていて、宿泊者は貸切料無料。そもそも8室しかないので、ほぼ希望の時間には予約が取れるだろう。部屋には露天風呂だけなので、身体を洗うのは別棟にある男女別の大浴場を利用することになる。
【館内施設】
施設は清潔で新しく、パーソナルな空間演出が現代的。山奥の一軒宿なので周りには何もなく、静かで落ち着いた時間を過ごせる。部屋にテレビはあるがBSだけで、地上波は入らず。テレビがなきゃ過ごせないって人にはきついかもしれないが、まあ温泉好きにはそういう人も少ないか。
「都わすれ」のメインターゲットは女性のようで、全般に女性への心配りがあちこちに感じられる。浴衣なんかもばりばりに糊が効いて着心地の悪いものではなく、ソフトに仕上げられている。女性用はピンク色で可愛らしい。まあ少し、「男は添え物」感が寂しかったが。全客室露天風呂付きな宿に男性のみのグループはあり得ないだろうから、正しい選択ではあるだろう。
【食事】
食事は食堂でいただく形となり、部屋出しではない。ちょうど山の季節は冬を抜け出したばかりの頃で、生でも食べられる新鮮な筍がなかなかの絶品。
オープンからまだ一年経ってなかったせいか、若い従業員はぎこちなく、取って食やしないんだからそんなに緊張せんでも、と逆にこっちがハラハラしたのはちょっとしたご愛嬌かな。
【夏瀬温泉への道は未舗装路】
夏瀬温泉への道は、国道46号を折れてから6kmの山道がほぼ全面未舗装。断続的に激しい雨が降る天候だったので、到着までに車は泥だらけになった。
以前はオフロード四駆に乗っていたような人間なのでそのことは全く気にしていなかったのだが、黒い車体にさすがに汚れが目立ったのか、チェックアウト時に「洗車代に」と心遣いまでいただいた。